地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達
適当にダラダラして夕方になると、気だるく気分も乗らない躰をのそりと起こし、マンションの駐輪場へ向かった。


マウンテンバイクの鍵を外し道路に出る。


普通のバイクも乗るが音もうるさいし、実は気ままに自分のペースで走れる、このマウンテンバイクの方が海星は気に入っていた。


母が入院した市立病院は、日野原の住宅街にあるマンションから、商店街を通るのが近道だ。



父の"珈琲豆屋"は夜8時まで営業しているので、父の代わりに海星が荷物を届けることになったのだ。


少しスピードを落としながら商店街へと入る。



もう少しするとお節介なおばさんの肉屋が見えてくるので少し気構えていると、今日は様子が違った。



「  …あいつ…    」



精肉店の前でおばさんに袋をグイグイと渡されて困った風に眉毛を下げている見覚えのある女が居た。
 

滅多に出てこないおじさんまでショーケースの後ろから顔を出していて、それも若干緩んでいるように見える。



またお節介でお惣菜か何かをあの女に持たせようとしているのだろう。


海星は無意識に少し離れた手前で止まってその様子を観察した。


他人に興味を示す事が少ない海星が、立ち止まって一人の人物を観察するなど、かなり珍しい事だ。

あの日、偶然行かされた豆の配達であの女に言われた事が忘れられないでいたのだ。



《 大事な物を背負える人間の言うことじゃない 》


今まで、自分たちの生活が変わったあの日から、周りは面白がる様に噂したり、腫れ物に触るように哀れんだり、親の職業が変わった事で海星より上の立場になったかの様に見下す奴等ばかりだった。



海星の容姿や生い立ちなど全く関係なく、なんのフィルターもかけずに言葉をぶつけられたのは初めてだった。



その喫茶店の女は諦めたのか、丁寧に礼をして近くに停めたママチャリに跨った。

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