地下一階の小宇宙〜店主(仮)と厄介な人達


「お前…  そのたまに出してくるそういうの何なわけ…」


「え? 」


「いや、  いいわ  」


こいつに遠回しに何か言っても通じないと諦めた海星の横で、
今日の海星はよく喋るなぁ、と呑気に佳乃が思っていた事を彼は知らない…。


「そう! それでね!?    ーーーー 」


佳乃は大変な思いをした今日の出来事を、
"聞いてほしい" と思っていた海星本人に、予想外に早く話せたことに興奮していて、とにかく一気に全部話した。


ゴローさんが来てから、エレナが店から出て行ったまでを話し終えると、こんなに自分って喋り続けていられるのか、と再発見までした。


「朝から晩までこんなに精神的に消耗したのは初めてだよ。」


「首突っ込むどころか、どっぷりだな 」


ただただ黙って聞いていた海星が呆れた様につぶやく。


「突っ込むつもりなんてなかったけど…
事件の方から勝手にやって来たのよ  」


大きく息を吸って、一気に上がったボルテージを呼吸と共に吐き出した。


「そんなもん迷惑だって言えよ… 
 って言いたいところだけど…   」


かなり無理めな一刀両断を食らいそう、と思った所で、背もたれから体を起こし、佳乃に視線を合わせた。


目と目が合うのは珍しい事だ。



「お前には無理だろ?  」


いつもの見下した様な言い方ではなく、まるで昔からよく知っているような、いたわるような言い方をされて、佳乃はそのまま海星から目が離せなくなってしまった。


まるで催眠術にかかって、体が固まってしまったみたいだ。


「とにかく誰が来ても、何言われても、何も知らないって言っとけ 
お前がこれ以上関わる必要はねぇよ 」


そう穏やかに話す海星を見つめたまま動かない佳乃に、今度こそ眉間にシワが寄る。


「  おい、  聞いてんのか?」


「 っああ! ごめん!」


眉間にシワを寄せられるのが、催眠術から覚める合図なのか…


ハッとして佳乃は急いで頭を切り替えた。


「ボケっとしてっからめんどくせー事に巻き込まれんだよ  」


「ボケッとしてないよ! これでも毎日気を張ってお店切り盛りしてるんだからね 」


さっきの優しい雰囲気の海星は幻だったかのように、あっという間にいつもの言い草である。


はぁ、っと短くため息を吐き、背もたれに体を預け、その長い足を組んだ。


「 あいつ…   あのホクロの女の方…
多分めんどくせー奴らとつるんでるから、
お前ほんとにもう関わるな。」


海星の声が少し固くなったのを感じて、ふとその表情を見た。


「面倒くさいって…? 」


あの薄暗いクラブの様な店の写真で、健全では無さそうなのはわかっている。


「ヤバいことに手出してる奴ら…。

 …暇なんだよ。   

 …暇だから、面白えと思った事なら何にでも手出す。
今回の事も、もしアイツが面白いと思ったら、関わってきてもっとめちゃくちゃにされるぞ?  」



そういう海星の目には、佳乃には見えない "アイツ" の姿がしっかりと見据えられていた。

< 84 / 97 >

この作品をシェア

pagetop