最愛の人に恋なんて出来やしない
「もうすぐ入学式だな。秋吉のところは親御さん来るの?」

「母だけね。栗…」

栗原くんのところは?と聞こうとした言葉を慌てて飲み込んだ。

「ん?」

優しい瞳で聞いてくるので、なんとか話題を変えなければと思い、

「栗原くんは…昔から誰よりも賢かったから、立派な大学合格したんだなぁって」

「そんなことないよ、俺は器用貧乏なだけだから。秋吉こそ、あんなしょっちゅう転校ばかりで不利だったのに頑張ったじゃん」

栗原くんって、昔からこうだったな…。

優秀なのに全然鼻にかけてなくて、誰も気付かないような、私のささやかな取り柄や努力に、ただ一人気付いてくれた。

私たちが、過去に一緒に過ごしたのは1年だけだったのに、その1年は私にとって、本当に大切な思い出だ。

そして、私がまた転校することになっても、手紙のやり取りを続け、ケータイを持つようになってからは、メールもするようになって、それが今日まで8年続いた。

まさか、またこうして再会できるなんて、本当に夢みたい…。
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