不純異性交際 -瀬川の場合-

カットとトリートメントをしてもらった私の髪は、つやつやと生き返ったようだった。

「黒髪のミディアムヘアに、赤めのリップ。やっぱりミライはコレだよね。」

最後の仕上げをしながら奈美が言う。


「ありがとう。これからも私の髪のお世話をよろしく〜(笑)」

待ち合いの椅子に座ると、上着を着てバッグを持った奈美がすぐに戻ってきた。



「恭ちゃんは大丈夫?」

恭ちゃんは去年生まれた、奈美の子供だ。

「うん!今寝てるし、お母さんもいるからOKだよ。実家っていいよねぇ〜」

ほんわかした口調で話す奈美は、外に出ると "さむっ" と言って上着の首元をキュッと握りしめた。
11月の風は乾いていたけれど、日差しが暖かい。





カフェに着くと、外のソファ席の周りには大きなストーブが置かれている。
膝掛けも用意されていて、意外と暖かい。

私と奈美は外向きのソファに隣同士で座り、いつものピザや紅茶なんかを注文する。
川沿いで車通りも少ないこのカフェは、ゆっくりするのに最高の場所だ。

ふと、さっき奈美が言っていた事が気になって同級生グループチャットのメンバーを確認してみた。

ーー70人もいるが、私はそれをすぐに見つけた。


「瀬川 紀子…」


紅茶に砂糖を入れてかき混ぜていた奈美がこっちを見る。


「グループチャットの?…ね、瀬川くんは居ないよね。」

「ほんとだね。でも同窓会には来るって言ってたし…もしかして、夫婦で来るのかな…?」


”瀬川紀子”という文字を目にして何とも言えないショックを感じながら、昨夜の瀬川くんの声を思い出す。



「いやぁ…それが、さっきの良からぬ話っていうのがね。」

奈美が話し始めた。

私は、やっと聞ける…!と思いながら、ひとまず落ち着くために熱い紅茶を一口飲んだ。


「瀬川くんと紀子って、7年前くらいに結婚したよね?それで、紀子は結婚前から子供がすごく欲しかったみたいなんだけど…なかなか出来なかったらしいの。」

「そ、そうなんだ…」


「うん…。2〜3年は頑張ったみたいなんだけど駄目で。紀子が自暴自棄になって、瀬川くん大変だったみたい。」

「それは、瀬川くんが奈美の旦那さんに言ったの?」

「そう、ずーっと前、同じ職場の頃にね。そのちょっと後に、瀬川くんの赴任の話が出てさ。田舎の中学校に赴任してからもう2年以上が経つかな」


「全然知らなかった。そんな事があったのね…。自暴自棄って、どんな?」

「お酒ばっかり飲むようになって、家事も放置だったって言ってたけど…なんかもうすごく荒れたみたいだよ。瀬川くんもかなり疲弊してるって、当時旦那が言ってた」


「瀬川くんも紀子も、大変だったんだ…」

「…まぁみんな、色々とあるよね。もう三十路だし〜。」

話が少し明るいトーンに戻った頃、ピザが運ばれてきた。


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