ロート・ブルーメ~赤花~
 でも紅夜は気を悪くした様子はない。

 むしろ笑って、片手であたしの頬を包むように触れる。


「なに謝ってんの? 俺は気にしてないのに」

「うっ……でも……」

「本当に気にしてないから。母親代わりの人はいたし、父親だったらいいなって思ってる人もいたから……さてと、そろそろ本当に行かないと予約の時間に遅れる」

 そうしてスルリと頬を撫でて紅夜の手が離れた。


 彼の表情がイタズラっぽいものへと変わる。

「それともまた可愛いお腹の音聞かせてくれんの?」

「っ!! もう、そのネタ忘れてぇ!」

 羞恥で顔を真っ赤にさせたあたしに、紅夜は声を上げて笑った。


 こうして見ると年相応な、あたしと同年代の男の子にしか見えない。

 でも管理者としての冷たい顔もあたしは知っている。


 食事のあと、赤黎会の会合に参加すれば総長としての彼も見ることになるんだろうか?


 少し怖い。

 でも、知りたい。


 あたしは、自分がこんなに特定の人を知りたがるようになるなんて思いもしなかった。

 変わったのは紅夜に会ったから。

 それは確実。


 そして、あたしはそんな今の自分がわりと気に入ってる。

 少なくとも、今までのように大人しく、出しゃばらずにいた自分よりは好きになれる。


 だから、怖いけれど。

 あたしは紅夜の手を取って歩き出すんだ。
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