ロート・ブルーメ~赤花~
「分からないけれど、赤ずきんを巻き込みたくなかったのは確かだと思うわ。じゃなきゃ、厳しい言いつけなんか言い含めなかったもの」

「……でも、それを言ったらまずお使いをさせなきゃ良かったってことになっちゃうよ?」

 どうしても赤ずきんじゃなければいけない理由なんてない。

 童話では、後付けだけれど森を見回っている猟師だっているんだから。


「……多分、どうしても赤ずきんじゃなきゃいけない理由があったのよ」

 すんなり出てきた言葉に、思考が固定される。


 赤ずきんの話……なんだよね?

 でも、当てはめると……。


「それは……あたしがお使いに来るのも、あたしじゃなきゃいけない理由があったってこと?」

 聞き返すと、軽くハッとした叔母さんは少し黙り込み、しばらくしてから口を開いた。

「……少し、話しすぎたみたいね。今日はこのまま帰りなさい昨日はほとんど眠れてないんでしょう? クマ出来てるし」

 暗に寝かせてもらえなかったんだろうと言われてあたしの顔は瞬時に赤くなる。


 何か重大なことを話していたと思うのに、その思考すら吹っ飛んだ。

「で、でも明日も日曜で休みだし。紅夜が良いって言うかどうか……」

 今日も離してもらえないんじゃないかと思っていたから、無理なんじゃないかと思ってそう口にする。


「紅夜は体力有り余ってるからいいかも知れないけれど、あなたは無理してるでしょう? あたしからも言っておくから帰りなさい」

 強く言われて、あたしは「分かった」と答える。


 それでも紅夜は渋るんじゃないだろうかと思っていたんだけれど……。


「悪い、美桜。問題が起こったから、今日はこのまま街を出てくれ」

 あたしを迎えに来た紅夜は、開口一番にそう言った。
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