ロート・ブルーメ~赤花~
 見上げて目に入った男の顔に、あたしは戦慄(せんりつ)する。


 そうだ。

 この男は街の外に逃げたと言っていたじゃないか。

 逃げたというから、無意識に遠くへ行ったものだと思い込んでいた。


 街の中にはいなくても、街の外ならどこかに潜伏していてもおかしくないというのに。


 街の外なら安全だと、そんな幻想を(いだ)いていたのかもしれない。


「何がどうなってこうなったかは知らないが、まさかこっちの方が総長の女になってるとはな」

 そう言って、憎しみにも近い色を含んだ眼差しがあたしに向けられた。


「っあ……」

 恐怖に身がすくむ。

「っ美桜!」

 でも、日葵に腕を引かれハッとした。

 今は怯えている場合じゃない。

 なりふり構わず逃げなきゃいけない状況だ。


 でも、そう判断したのが遅かったみたいで……。

 あたし達はガラの悪い連中にしっかり囲まれていた。


 日葵と二人、身を寄せ合う。


 どうしよう。

 どうする?


 この状況はどうあっても逃げられない。

 だったらせめて、少しでも悪い状況にならない様にしないと……。


「さて、今度こそしっかり利用させてもらうぜ?」

 その言葉と共にあたし達二人に手が伸ばされる。
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