最初のものがたり
戸惑う私の前で、
込み上げる笑いを堪えるように
口元を抑える彼女。

「勇くん、この子貴重だよ。
笑える!いるんだね。
勇くんもあんまり、
自惚れない方がいいね。
かっこ悪。」

そう言って私に近づくとニッコリと笑った。

「名前なに?」

ドキドキするほどかわいい。

その辺のアイドルよりも華がある。

「ナナミです。」

ふーんと首を傾げる仕草もかわいい。

ファンになりそう。

ずっと見てたい。

「ナナちゃん、よろしくね。
今度、遊ぼう!」

え、え、遊んでくれるの?

そう言って携帯を出して、
アドレスを交換しようと笑う。

「おい、よせよ。ふざけんな」

は?陰気野郎は黙ってろ。

「ざんねーん。
じゃあ先に帰るね。ナナちゃんまたね。」

そう言う彼女に工藤くんは

「ちょっと待ってろ。
先にこいつを送ってくるから」

と、私を送ろうとした。

「いや、いいから。
彼女を送ってよ。私はまだ練習するし」

私の言葉は一旦無視して彼女を見た。

「勇くん、私は大丈夫だよ。
彼、待たせてるし。ほら。」

そう言って、
コンビニの駐車場に停めてある車を指差す。

え、彼?

「早く帰れよ。オヤジが心配するから。」

うん?

どういう事?

「はーい。勇兄」

え?勇兄?

兄って、兄さん?

え?兄妹?

嘘でしょ。

あんな可憐な妹がいるのか。

全然、似てないじゃん。

というか、何してんだ、私。

シュート練習、結局、してないし。

工藤くんと関わると疲れる。

もう一度公園に寄って、
バスケチームのお兄さん達に教えてもらおう。

それにしても、
あんなにかわいい妹がいるなんて、
神様も不公平な事するな。

明るさコミュ力の全てを妹に取られたな、
あれは。

それで恨んで中2病になったんだな。

少し同情しながら来た道を戻った。

「おい、先に行くな」

工藤くんが追いついた。

「いいよ、送らなくて。」

「そういう訳にはいかない。いちお女だし」

いちお、ね。

ふーん。

そういう事は出来るのか。

そのまま黙って歩いた。

公園の前で立ち止まって中をのぞいたけど、
もうみんないなかった。

ボールだけ置いてあった。

「ここでいいよ。ちょっと練習して帰るからさ。」

今日も1回もかごにボールを入れられなかった。

あと少しで球技大会なのに。

焦ってる。

「ダメ、もう帰れ」

は?

なんなの。

「なんで命令されないといけない訳?
ここまで送ってくれてありがとう。
でも私のことはほっといて下さい。
じゃあね。」

そう言って公園に入ろうとした私の腕を、
工藤くんは強く掴んだ。

「あんなの、ただのお遊びだろ。
そんな練習するような事じゃない。
適当に流せばいい。」

あー、やっぱり嫌なやつ!
自分が簡単にできる事はみんなできると
思ってる!
出来なければ適当に、って?

適当!
流す!

大っ嫌い、そんな言葉。

「私にとっては流すも適当もない!
そりゃ、やらなくていいならしないけど、
逃げられないなら、せめて、
できる事は全てやりたい。
どうせやるなら、頑張った方が楽しいし。
だから、今日はもう、ここでいい、さよなら。」

工藤くんの手を振り払い、公園の中へ
足を進めた。

「分かった」

背後から工藤くんのため息まじりの
声がした。

「だけど、今日はもう遅い。
練習は明日、付き合ってやるから。
もう帰れ。いいな。」

え?

耳を疑った。

今、なんて?

教えてくれるの?

うそ。

なんで?

どうしてそうなるの?

何か企んでるとか?

分からない。

「ね、
どうして急に教えてくれる気になったの?
何か企んでるとか?
それともまた嫌がらせとか?
というか、
まともに会話が成立してて
調子狂うんだけど。
どういう事なのかな。」

また私を睨んだけど、
今までと少し感じが違うような気がする。

「うるさい。じゃあ教えない。」

いや、待って。

例え補欠でも、
シュートのコツだけ教えてくれる人なら大歓迎!

教えて欲しい。

「なんで補欠前提の話なんだよ。
俺、いちおレギュラーなんだけど。
シュートなんて1日で出来るようにしてやる」

あらあら、大きく出ちゃって。

例えあなたが名選手でも私の運動神経の無さ、
なめてもらっちゃっ困る。

でも言ったら断られそうだから
黙ってる事にした。

「分かったら、今日は大人しく送られろ」

そう言ってまた歩き出した。

工藤くん、不思議。

なんかアタリが柔らかくなった。

国語、少し勉強したのかな。

でも、まずは。

早くシュートできるようにならないと。

頑張らないと。

明日、工藤くんにゴールできるようにしてもらおうじゃないか。

そう思いながら家までの道のりを歩いた。
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