最初のものがたり
大きく深呼吸をする。

大丈夫。

何も変わってない。

でも、大丈夫なんかじゃなかった。
思った以上に傷ついた。

ツバサくんのボタン、付けたかった。

これからは、あの子が付けるのかな。

初めて感じた疎外感。

ツバサくんの事は全部、私が1番だったのに。
じんわりと涙が沸くのが分かった。

ダメだ、今は泣けない。

勇磨がいる。

サッと縫って勇磨に手渡した。

裁縫セットをしまう手が震える。

うつむき髪で顔を隠した。
でも勇磨は気がついてた。

私の頭をポンポンと叩く。

「なんだよ、いつもの威勢はどうした?
あんな軽い女、ぶっ飛ばしてやれよ」

ふん、自分だってヘラヘラしてたくせに。

勇磨の手を振り払う。

女の子とまともに話す勇磨、初めて見たよ。
やっぱ、男の子はみんな、
ああいう、かわいい女の子が好きだよね。

女嫌いな勇磨も惹かれるなら、
一般男子はイチコロだね。

「俺、別にあんなの好きじゃねぇし。
なんだったら1番苦手。
ナナの為にちょっとツバサ?を
煽ってみたんだけど、アイツ、鈍感だな」

何が、私の為だよ。

カッコつけて。

「これ、サンキューな。うん、上出来!
見直したわ、マジで」

そう言ってユニフォームを着た。

上出来って、上から目線。

全く、何様男。

でもまた心がキュッとなる。

「あーもう裁縫セット、
持ち歩かなくてよくなるな。」

思わずつぶやいた。
勇磨は私の前に座り上目遣いに笑う。

「その裁縫セットは、
下心のかたまりだったんだな。
やっぱ、見直し撤回。」

私もちょっとふてくされた顔して笑った。

「いけない?
勇磨がされてる鬱陶しい事を、
私だってしたくなるんだもん。
ボタンが取れたら、それはチャンスだよ!
勇磨。」

チャンスかぁーと上を向いて笑う。

「でも、アイツらとナナは違う。
下心セットはそのまま持ってろよ。
チャンスはまだあんじゃねー。
それに俺のも縫ってもらわないといけないしね。」

吹き出した。
なんで、勇磨のまで。

「だって、ナナ。
俺のを解放したら戦いが起きるぜ。
平和な学生生活を送れない。」

そこまで言ってから私の顔を見て、
タイミングを計る。

「中2病」

2人の声が重なり爆笑した。

「ほら、行ってこいよ。試合始まるぞ。
俺も走り込み終わったら顔出すよ。
マネージャーに呪いかけて来い!」

勇磨に送り出されて、さっきまでの暗い泣きたい気持ちがなくなってるのに気がつく。

初めて勇磨に感謝するよ。

サンキュー。

よし、あのキャピキャピガールに呪いかけてやろう!


< 30 / 147 >

この作品をシェア

pagetop