最初のものがたり
「ナナ、行かなくていいの?
ツバサがさっきから、
こっち見て手を振ってるけど」

あ、そうだ。

振り返るとツバサくんが大きく手を振ってる。

「忘れてた!ツバサくん達。」

思わず呟くと、勇磨がまた笑う。

「今日、何しに来たんだよ。
ツバサと映画だったんだろ。
それ、忘れたらダメじゃね?
それとも俺とデートで良かったの?」

最後で真剣な表情になるから、
ちょっと冗談に思えないくらいだった。

最近、勇磨、少しキャラ変わった?

こんなチャラ男キャラだったっけ?

「良くない。」

そう返すのが精一杯。
勇磨を無視してツバサくん達と合流した。

「なぁな、何してたの?」

ツバサくんの質問に勇磨が答えた。

「うん?ナナが、
俺と2人でデートしたかったって言うからさ。
また今度ね、って説得してたの」

私の頭に手を置きながら、
ツバサくんを上目遣いで見る。

ツバサくんが私をじっと見てる。

バカ!
そんな事言ってないし!

勇磨の手を払いのけて抗議した。

「えーそうだっけ?」

チャラ男勇磨にカスミちゃんも参戦した。

「いいなぁ、仲良しで。素敵」

バカ女!

空気に飲まれていたツバサくんが、
ふと思い出したように慌てた。

「あ、映画!もうすぐ始まる!早く行こう」

そうだ、映画だ!

もう、さっきから勇磨のせいで色々と脱線する!

みんなで急いで映画館に向かった。
チケットを購入して席に着いた。

カスミちゃんの隣にはツバサくん。
私の隣には勇磨が座った。

席は2組づつ前後になった。

ツバサくんの隣に座りたかった。

しかも2人が前に座るから、
見たくないのにカスミちゃんが、
ツバサくんの肩や腕に触れるのが見える。

カスミちゃん、わざとやってる。

本当、嫌い!

「ぶはっ」

突然、隣で吹き出された。

「ナナ、超、怖い顔してる。」

勇磨の存在を忘れてた!

ニヤニヤ笑って私のベレー帽を目深に被せる。

「怖いから隠そうっと。」

その手を振り払って被り直す。

「もうっやめてよね。」

口を尖らせて怒る私に、
また怖いと言ってふざける。

「ねぇ、ナナ、お前さ、
こういう映画、大丈夫なの?」



何が?

キョトンとして周囲を見渡す。

「こういう映画って?
というか何を観るんだっけ?」

そう聞く私にまた爆笑する。

「ナナさー完全に上の空なんだな。
おもしれーな。俺、勉強になったわ。」

は、何の勉強?

何の事を言ってるの?

「俺は絶対、恋なんてしたくない」

ふーん、あ、そう。
別にどうでもいいけどね。

「中2病で陰気野郎には無理だって、
今、そう思っただろ」

勇磨がからかう。

「うん、確かに!
恋愛ってコミュニケーション大事だもんね。
勇磨、国語力ないし、会話成立しないしね」

すごい顔して私を睨む。

ふいにツバサくんが振り返った。

「あ、中2病の人って、工藤の事か!
そっかそっか、治ったんだね」

勇磨と顔を見合わせて笑ってしまった。

ツバサくん、それは天然なの?

「いや、分かってるって。
なぁなに言われて後で調べた。
俺様的な人の事だよね。
俺は他の人とは違う的な。
うん、そっか、中2病だったのか。」

勇磨は頭を抱えて

「もう、いい。ツバサ、前向いてろ」

その言葉に首を傾げてまた前を向くツバサくん。
香澄ちゃんは、チラチラと私と勇磨を見る。

「ナナ、お前、罰ゲームな。
散々、俺の悪口言いまくった罰。」

もちろん反論した。

「え、なんでよ。そう思わせたのは勇磨じゃん。
私じゃなくてもそう思うよ」

勇磨は断言した。

「いや、ナナ以外は俺を好きになる」

瞬間またツバサくんが参加する。

「うわーこれか。これが中2病なんだね、
なぁな。俺、こんな事言う人初めて見たよ。」

天然ツバサくんの腕に?
カスミちゃんがそっと手を置いて話す。

やめろ、バカ。

「うん、工藤くんの言う通りだよ。
私、隣の市の中学だったけど、
みんな工藤くんの事、知ってた。
追っかけの子もいたよ。ファンクラブもあるよね」

え。

追っかけ?
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