社長はお隣の幼馴染を溺愛している
「さすが、会長を守るボディガード。忍び込むくらいはお手の物でしたよ」

 両親との顔合わせの食事会という名目だったけど、その裏では、朝比さんがどこかに忍び込み、データを盗んで証拠を手に入れたらしいということがわかった。
 すでに、あの頃には、扇田の粉飾決算がわかっていたことになる。
 宮ノ入に嘘の業績を報告していることに気づき、会長の逆鱗に触れた。
 それで、要人を沖重グループの社長にし、エサにして扇田工業の娘を誘き寄せ、婚約者として近づく。
 情報を引き出し、証拠の帳簿を手に入れやすくしたという流れ。
 要人が沖重グループの社長として来る前から、すべて仕組まれていたのだ。

「思った以上のことをやってくれた。わしの若い頃にそっくりじゃな」

 会長は満足そうだったけど、会長の孫にあたる宮ノ入社長は嫌そうな顔をしていた。
 この世に(曲者そうな)会長が二人もいては、あんな顔にもなる。

「それで、社長。報酬をもらえませんか?」
「うん? なんだ?」

 要人は白い紙を一枚取り出し、机の上に置いた。

「社長夫妻に、婚姻届けの証人になっていただきたい」

 表情をあまり変えない人だと思っていた宮ノ入社長が、優しい顔で笑った。

「わかった。夫婦だからな」
「そうです。社長夫妻にお願いしたい」

 これで、要人はお見合い相手を勧められることもなく、プライベートを利用されなくなる――そういうことらしい。
 
「それから、会長。宮ノ入の弁護士をしばらくお借りします」
「ふむ。よかろう」

 まだなにか、たくらんでいるようだったけど、要人の表情からは、まったく読み取れなかった。
 でも、聞かずとも、なんとなく私はわかっていた。
 後、私たちに障害があるとするなら、仁礼木の家だけだと――
< 148 / 171 >

この作品をシェア

pagetop