社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 若い家政婦さんが、しっかりしているのか、お屋敷の中は荒れておらず、以前と同じように、きちんと片付けられ、整えられていた。

「要人、来たか」

 居間に入ると、そこには要人のお兄さんである清臣(きよおみ)さんが、くつろいでいた。 
 清臣さんは若い女性を一人連れ、家政婦さんが運んできた紅茶を口にし、微笑む。
 座っているだけなのに、どことなく育ちの良さがにじみ出ていて、優雅な仕草も清臣さんだと、嫌みに感じない。
 その一方で隣にいる女性は、可哀想なくらいに緊張していて、直立不動の姿勢を保つ。
 落ち着かないのか、立ったり座ったりしていた。

梨日子(りかこ)、座って」
「あ……。そ、そうですよね。でも、清臣さんの弟さんにご挨拶をしてからっ!」

 要人を弟さんと呼んだけど、彼女は明らかに私より若かった。

「私、林田(はやしだ)梨日子(りかこ)と申します。清臣さんとお付き合いさせていただいていて……。え、えっと、職場は仁礼木総合病院の売店勤務ですっ!」

 売店勤務という梨日子さん。
 そういえば、仁礼木総合病院の売店は、地元のスーパーが入っている。
 仁礼木家と昔馴染みの関係で、売店前にはちょっとしたイートインスペースもある。
 時代に合わせて、制服もカフェ風のおしゃれな制服に変わったと、八重子さんが言っていたのを思い出す。
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