社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 俺の腕に触れた志茉は、今度は俺が仁礼木を追い詰めると思っている。
 ――それは正しい。この日を待っていたのだから。

「わかった。なんとかする」

 志茉の涙をぬぐい、押さえつけていた体を解放する。

「な、なんとかするって、なにをするつもり!?」
「志茉から、俺にキスしてくれたら。教えてやるよ」
「やるわけないでしょ!」

 顔を赤くして怒る志茉は、あの頃と違う。
 それが嬉しくて、俺は笑った。
 スマホを取り出し、連絡するのは俺の能力を買い、一気に昇進させた宮ノ入(みやのいり)社長の秘書、八木沢(やぎさわ)常務。

「要人、どうするの?」
「昔とは違う」
「違うのはわかるわ。でも、誓約書があるのよ?」
「あるな。だから、こちらも正攻法で行く」

 宮ノ入グループなくらいの大企業なら、仁礼木の弁護士に勝てる弁護士をいくらでも用意できる。

「仁礼木と争うの? そんなことしたら、要人は仁礼木の家と縁を切ることになるわ」

 どこまでも優しい志茉は、仁礼木家のことを考えているようだった。
 だが――

「志茉は俺を優しい人間だと思っているけど、それは違う。好きでもない女と同情だけで、一緒にいるような優しい男じゃない」

 その心配そうな顔に、手を伸ばし、頬に触れる。
 志茉はもう逃げない。
 その唇にキスをして、俺たちの関係の終わりを告げる。

「幼馴染は終わりだ」

 ようやく、俺たちは幼馴染ではなくなった。
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