社長はお隣の幼馴染を溺愛している
 ――元々、片付けるつもりがないから、誰かにやらせようと思ってたってわけね。

 部署をたらい回しにされるのも納得の態度。
 さっさと片付けて、ここから脱出するに限る。
 汚れると困るので、上着と腕時計をはずし、椅子に置いた。
 愛弓さんを無視して、書類を集めてまとめ、ファイルを年代ごとに棚に並べる。
 黙々と作業する私に、愛弓さんが話しかけてきた。

「倉地さんって、要人さんの幼馴染なんですってね」
「誰から、それを……」
「仁礼木のおば様が困ってらしたわよ。倉地さんをどうにかしてほしいって」

 愛弓さんに私と要人が幼馴染だと教えたのは、仁礼木のおばさんのようだ。
 仁礼木のおばさんは、要人と愛弓さんを結婚させたいのだろう。
 扇田(おおぎだ)工業のお嬢様なら、仁礼木の家とも釣り合う。

「仁礼木の家に相応しいのは、私のほうだから、ぜひ要人さんと結婚してって言われたの。倉地さんが住んでるアパートを見たけど、おば様が心配するのも当然よね」

 そんなことわかっている。
 おばさんに何度も言われたことだ。
 だから、今さら、ショックも受けないけど、愛弓さんはそう思っていない。
 あからさまに、私の境遇を馬鹿にし、自分のほうが、要人に相応しいと主張する。

「掃除しないなら、経理課に戻りますけど」
「やだ~。怒ったの? でも、要人さんのご両親は私の味方だから。あなたのことはなんとかしますって言ってたわよ?」

 ――私をなんとかする前に、自分の息子である要人をなんとかしないと、困ったことになりそうなんだけど。

 うーんと唸りながら、首を傾げた。
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