純愛
「雨、もうちょっとしたら弱まるかな。それまででいいから。」

トタン屋根の下で、濡れた腕とか髪の毛をハンカチで拭きながらつばきが言った。真っ白の肌に黒くて長い髪の毛。漆黒って感じがする。
童話の中のお姫様みたいだ。これで我が儘じゃなければ完璧なのに。
その長い髪の毛に、ハンカチが役に立つのか不思議な気持ちで、俺はつばきを見ていた。

その視線に気づいたのか、つばきがパッと顔を上げて俺を見た。

「なに見惚れてんの。」

「バーカ。」

「カンナちゃんに言いつけちゃうよ。」

「はいはい。勝手にしろよ。」

カンナと俺が付き合い始めてから、つばきはやたらと俺達のことに突っかかってくるようになった。告白をした当日の夜も、報告をした俺に、つばきはムスッとした顔をした。
年齢が同じなだけでつばきは子供なんだ。自分だけがオモチャを与えられなかった子供の様に、駄々をコネ続ける。俺もカンナもそういうつばきには慣れていたし、次の日にはコロッと忘れたみたいな態度を取るから、大きな喧嘩になったことは無い。
これでいてつばきは外面というか、人当たりは物凄く良かった。明るくて親切で、少し子供っぽいところもあるけれど、容姿もいい。誰からも好かれた。その外面の良さを、俺達の前で発散するかの様に、別人になる。
でも、つばきは小さい頃からこうだったし、俺もカンナも「おもり」をしている様に接してきた節はある。甘やかしてきた俺達にも責任はあるのかもしれない。別に、「そういうつばき」を見せるのは俺とカンナの前だけだったし、周りに迷惑をかけていないのなら、それでもいいと思っていた。
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