赤い果実は素直になれない〜侯爵令嬢の不本意な結婚〜
シェリル・エトワルドーー数ヶ月前まではシェリル・スタンダードと名乗っていた彼女は、貴族の中では珍しく二十歳を超えた独身女性だった。
基本的に十代で結婚できないと行き遅れと見做されるこの国で彼女は少し特殊だった。

スタンダード家という超名門侯爵家に生まれた彼女は、時代が時代ならば王族に嫁ぐにふさわしい家柄の女性であったが、現在彼女に釣り合う年齢の王族は全て婚約者が早々に決まっていた。

それなのに、彼女の父親であるスタンダード侯爵は可愛い愛娘をとにかく名家に嫁がせようと躍起になっていた。いわゆる娘より「格上」の相手と。けれどこれもまた徒労に終わる。

そもそもにおいてスタンダード家より格上となると王族を除いて片手で収まる程しかないのだが、その中には不幸にもシェリルに見合う年齢であり、かつマトモな独身男性がまたしてもいなかった。

結局、優柔不断な侯爵があれこれ迷っているうちにどんどん優良物件が減っていき、シェリルはあろうことか自分で結婚相手を決めることになったーー迷いすぎてよく分からなくなった侯爵がとうとう娘に泣きついたというなんとも情けない理由が裏にはあったのだが。

かくしてシェリルは自分に残された数少ない選択肢を振り返り、哀しくも検索結果は一件のみとなったその結婚相手に白羽の矢を立てる。

それがエトワルド伯爵家長男、シェリルと同じ年齢のダニエル・エトワルドだった。
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