離婚するはずが、極上社長はお見合い妻に滾る愛を貫く
 ひとたび外の世界に出れば、ひと声で兜町を揺るがす投資家として名が通っていた。

 これまでたくさんの人に出会って見極めてきた祖父が〝いい男〟と言うのならば、間違いないだろう。

 けれど、それとわたしの結婚とはまた別の話だ。まだ二十歳で、頑張って合格した大学さえ卒業していないのだ。将来は社会に出てきちんと働きたい。『納税は国民の義務』と口をすっぱくしてわたしに説いてきたのは祖父なのに。

 わたしは祖父に育てられるようになっていわゆる〝裕福な家庭の子〟になった。家族は祖父しかいなかったが、家には毎日通いの家政婦が来てくれていたので家事で困ることはなかった。他にも祖父の秘書をしている人も、わたしの世話をよくしてくれていた。

 生活環境は激変したが、祖父は決してわたしを甘やかすことはなかった。もちろん誕生日やクリスマスにはプレゼントを買ってくれたし、衣食住は申し分のない環境だった。

 高校時代のクラスメイトの中には両親から湯水のようにお小遣いをもらいそれを使う子たちが少なからずいた。

 ブランド物のバッグや化粧品を買ったり、お店を借り切ってパーティーをしたり。そういう子とは違い、もらったお小遣いの中でやりくりするいわゆる普通の生活を送っていて、それでわたしは満足していた。

 むしろそのお小遣いを増やす方法を教えてもらっていた。祖父にそんなことを教わっている学生はわたしくらいだと思う。新聞の読み方から始まり、株式チャートの使い方や投資の意義などを教わった。

 初めて買ったのは、当時自分が好きだったお菓子会社の株式だ。そう大きな利益を出すことはないが、好きな企業を応援したり経済の動向に敏感でいられたりするので、今もコツコツ投資は続けている。
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