シングルマザー・イン・NYC
外に面した壁には、一面に大きな窓があり、眼下には芝公園――大きな公園だ――今は真っ暗だが、昼間は豊かな緑を見渡せるだろう。そして公園を挟んで向こう側には東京タワー。

「案内するよ」

樹さんは、廊下に戻った。

右のドアを開けると、そこはベッドだけが置いてある六畳ほどの部屋。

「寝室」

「うん」

「そっちは、ウォークインクローゼット」

樹さんは、ベッドの足元側の壁の前に立ち、引き戸を開けた。

「わあ。大きいね」

中は四畳ほどの空間だ。

「見ての通り、俺の服は半分くらいしか入ってないから。希和も使って」

「ありがとう」

そう答えながらも、私の関心はベッドに向かっていた。

大きいな。ダブルだ。
このベッドで他の女の人と――。

「……」

「してないよ」

「えっ」

「今、やらしいこと考えてただろ」

「そういうわけじゃ……」

「――希和は?」

「え?」

「俺と別れてから、誰かとした?」

直球の質問。
樹さんは微笑んではいるが、目が笑っていない。

「――してないよ。慧を育てるのに精一杯で、男の人とデートする余裕なんてなかった」

それに、いつも心の片隅にはあなたがいたから。

「ふうん」

さりげない風を装ってはいるが、さっきとは違って、とても嬉しそうな表情だ。

樹さんが寝室から出ていき、私も後を追う。

今度は左の突き当りの部屋。
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