ひと夏の、
「例え世界が5分前にできていて、全ての記憶が創りものだとしても、星は月の涙でできてるってことを、僕は絶対に幻想なんかにさせない」

この夜が明けたら、僕とナナは平気なフリで生きていく。僕はナナを南野さんと呼ぶし、ナナは僕を北河くんと呼ぶ。次の息継ぎができるまで、僕とナナはプールの底に沈んで、また夜が来るのを待っている。


ナナが微笑んだ。
少しずつその顔が歪んで、目元に月が光った。


僕はその月を、不器用な指先で掬った。僕らの生きる世界がどうか優しい世界であるようにと、僕はただ懸命に祈った。
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