ひと夏の、
「……分かってるわ、そんなん」

「え、」

顔を上げると、朔良は首の後ろを擦りながら視線を逸らした。


「会いたいだけなら、別に遊園地じゃなくてもいいと思った。お前ん家送っていけばそのまま看病もできるだろ」


そこまで言うと、朔良は私を引き寄せ、細くて硬い腕に閉じ込めた。


朔良のゆっくりで落ち着く鼓動が、耳の奥で響く。


「見くびんな」


朔良の声は柄にもなく焦っているみたいだった。


朔良の顔を見ようとすると、右手で頭を胸に押し付けられ、見んな、と不機嫌そうに言われる。


それがなんだか可笑しくて、私はまだ涙を零しながらも笑ってしまった。


酷い顔になってるだろうなと思ったけど、顔を見られたら私も見んなって返してやろう。


涙はいつの間にか、嬉し涙に変わっていた。


「帰ろう」


朔良が言う。
私は朔良の腕の中でこくり、と頷き、涙を拭く。
赤くなった鼻を見て朔良が笑い、ぺちん、と冷えピタを叩かれる。


「間抜けに拍車がかかるな」

「ファッションリーダーって呼んでよ」


顔を見合わせて笑い合う。
自然と繋がった手は、熱にも負けないくらい暖かかった。
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