5時からヒロイン
ナンパ慣れしていた男達。だって話の振り方や話題が豊富。
何より、女の扱いがスマート。彼氏だといつも嫉妬していて落ち着かないかもしれないけど、ナンパならこれくらいがいい。
ずっと笑って楽しく話が出来ていた。

「ナンパいいわね」

男たちと店で別れ、弥生が言った。私と同じことを思っていたようだ。
店で別れたのは言うまでもなく、女王、弥生の指示。

「慣れ過ぎてて、慣れてないあんたが使い捨てされそうだからダメ」

という理由。
楽しくて胃の痛みを忘れていた私は、三杯ほどカクテルを飲んだ。カクテルって意外とアルコール度数が高くて、ほろ酔い気分になった。

「あ~気持ちいい!」

回りを気にせず両手をタイタニックのように広げて、思い切り叫んだ。少しふらつくのが気になるけど、帰れない程じゃない。

「ほんと気持ちいい」
「やっぱり?」

なんて言いながら二人で駅に向かって歩き出そうとしたとき、私のルブタンが道路のコンクリの窪みにはまり、ずっこけた。

「痛い! なんなの!?」
「ちょっと恥ずかしいじゃない」

酔っ払いが転ぶなんていい見世物。いい女が二人で笑いながらじゃれ合っている。

「ほら立って」
「うん」

弥生が手を貸してくれ、立ち上がろうとしたときだ、再び足元がぐらついて立てない。

「なに!?」

自分の足を見ると、

「いやあ! 私のルブタン!!」

なんとヒールが折れていたのだ。おまけに膝からは血が出ていた。そんなことは構わず、パンプスを脱いでヒールを確認すると、見事にポキッと折れていた。パクパクしたヒールを何とかつけようとしていると、傍で心配していた弥生が笑いだす。

「なによ! 笑わなくてもいいじゃない!」
「だって、折り紙の……あの、なんて言ったっけ? パクパクするやつ! それみたい! あはははっ!」

弥生も酔っているから周りを気にせず大笑い。膝の痛みもなんのその、私はひたすらヒールを付けようと必死だ。

「無理に決まってるじゃん」
「だって!」
「コンビニで接着剤を買ってとりあえず付けなよ」

ほら、と言って弥生が手を貸してくれ立ち上がろうとしたとき、激痛が走った。

「いたっ!」
「どうした?」
「足首捻ったみたい、めちゃくちゃ痛い」
「え! まじ? 見せてごらん?」

夜の繁華街でいい女が大変な目に合っているのに、誰も助けてくれない。世知辛い世の中だ。

「暗くてよくわかんないけど、膝からは血が出てる」

ちょっと待っててと言って、弥生はコンビニに走ってくれた。私も道に座っている訳にいかず、なんとか立ち上がってガードレールにお尻を乗せた。
パンプスをしみじみ眺め涙がでそう。

「あー、革まで捲れちゃってる……」

修理代が頭をかすめる。
私が感傷に浸っていると、弥生が息を切らして走ってくる。

「ごめ~ん」
「ほら、絆創膏と接着剤。とりあえずやってみよう」
「うん」

膝の血をティッシュで拭いて絆創膏を貼っている間に、弥生はパンプスの修理をしてくれる。友よ、ありがとう。

「これさ、くっついたけど歩くのは危ないよ。タクシーで帰りなよ」

ヒールを何とか接着したけれど、グラグラしている。私の戦闘服でもあるルブタンは8センチのピンヒール。それに足もくじいて歩けそうにないし、膝は名誉の負傷。絆創膏を貼っているところから血が滲み出てしまっている。

「そうする」

足もかなり捻ったらしく、もはやパンプスは履けない程腫れていた。ふと雑誌の占いを思い出す。

「当たってるだけに何も言えない」

この先も占いが当たりそうで怖い。もう読むのはやめよう。
途中、運転手さんにドラッグストアに寄ってもらい、湿布を買う。
自宅になんとか帰ると、足は悲惨な状態だった。

「明日はサンダルだな」

パンプスは履けなさそうなほど、足首が腫れていて、膝は絆創膏じゃ隠れない程の擦り傷だった。
お風呂は傷が沁みて大騒ぎしながら入り、ネットで捻挫をしたときの対処法を検索する。怒涛の如く押し寄せる不幸に、疲れ果てて眠るしか出来なかった。




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