蒼月の約束


「はぁどうしよう…」

王子の寝室前でエルミアはため息を吐いた。

「眠るだけなのに、緊張してどうすんのよ~」

「入らないのですか?」

いつの間にか後ろにいたグウェンが軽蔑した声で言った。

「は、入ります…」

「ミアさま、分かっていますね」

「え?」

釘を刺すようにグウェンが言った。

「王子の体に指一本でも触れたら・・・」

脅すように腰の短剣に手を伸ばす。

「こ、心得てます!」

エルミアは急いで答えた。

「よろしいでしょう。さあ、お入りください」

一層にも増して怖い形相のグウェンにビクつきながら、エルミアはドアを静かに開けた。





部屋はすでに消灯されおり、窓から差し込む月明りが静かに部屋を照らしている。

ふと部屋のあちこちに月明りを浴びて虹色に光るものが見えた。

ベッドの側、窓際、そして箪笥の上。

部屋の至るところに、エターナル・フラワーが飾られていた。

恐らく、王子がサーシャから全て取り返したのだろう。


エルミアはあの時のことを思い出してふと笑みが零れた。

ベッドまでゆっくりと近寄った。

すでに王子は寝ているようで、エルミアは安心した。

ゆっくりとベッドの中へと滑り込み、王子に背を向けて寝転がる。


「遅かったな」

突然耳元で話しかけられて、エルミアの心臓はまたもや高速で動き始める。

「え、あ、精霊の道具について話していたから…」

王子の方を振り向かずに、掛け布団のすそをぎゅっと握りしめる。

この鼓動が聞かれないようにと願うしかない。

「春が来る。そろそろ準備しないと」

王子はそれだけ言うと、スーと言う寝息と共に規則正しく呼吸し始めた。

眠っているというのにも関わらず、しっかりとエルミアの腰に手を回している。


「眠れないのは、私だけ…」


あと何時間、この状況とうるさい心臓に耐えなければならないかと考えると、自分の気持ちに正直にいられることが嬉しいはずなのに、少し憂鬱になった。




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