蒼月の約束

「大丈夫か?」

眠そうな声で王子が言った。

普段から隙を見せない王子の貴重な半覚醒状態を見られるとは。

不覚にもドキッとしてしまった。

「な、何がですか?」

自分のところに布団を一生懸命かき集め、体を隠しながら、エルミアは聞いた。

「3日間、高熱でうなされていた。覚えていないのか?」


そう言えば…

水盆で家族の姿を見て気絶してから、記憶がない。

そして、今まではと違う形の家族の様子を思い出した。


私がいないのに、私がいなくても成り立つ。
少し前まで、私がいた場所に別の誰かが、当たり前のように存在している。
同じなのに、全く異なって見えた家族。


エルミアが、突然青ざめた顔をしたので、王子は優しく声をかけた。

「お前を家族の元に届ける。必ず見つけ出すから」

「はい…」

「おそらくチャンスは、次の蒼月の日だろう」

それまでに情報集めをしないと、と言う王子を見つめた。

スカイブルーの美しい瞳が確固たる決心を伝える。約束を本気で守ってくれるようだ。

「ありがとうございます…」

すると王子は体を起こして言った。


「そう言えば、自己紹介を忘れていた。
私の名前は、アルフォード・リンディル・イリシオンだ」


長っ…


「お前の名前をもう一度聞いてもよいか?」

「はい…。エルミア…です」


ふと頭の中で、先ほどの夢がまた鮮明に蘇り、とっさに口から出た名前がこれだった。


あれ…?もっと違う名前だった気がする。


しかしそれをもみ消すかのように、さっきの言葉がまた頭の中でこだました。



【精霊の書を見つけなさい】


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