オスの家政夫、拾いました。2.掃除のヤンキー編
疑問を抱いたまま、彩響は自分の個人メールアカウントを開いた。普段はあまり使ってない個人アカウントは迷惑メールばかり溜まっていて、特に変わった様子はない。もしかして…?と思い、「送信済みメール」のリストを確認すると、自分が知らないメールの痕跡があった。

「『マルマル出版社の担当者様、原稿をお送りしますのでご確認お願いします』…?」

確かに、このアカウントから原稿を投稿した痕跡が残っていた。時期は約6っヶ月前、時間帯は…夜中の3時27分。この日付に妙に見覚えが有り、彩響は自分の手帳を確認した。そしてすぐ気づいた。この日は…。

(間違いない、この日は…成が出て行った日だ)



仕事を終え、終電に乗り、早足で家に向かう。静かで暗い玄関を過ぎ、急いで部屋の中へ入ると、早速押入れを開ける。奥に入っていたダンボールを全部取り出して、彩響はなにかを必死に探し出した。

(あ…あった!)

ダンボールの奥から例のTreasure Noteが出てきた。もうずっと放置して、再び触れる勇気もなく、結局押入れの中にずっとしまっていた。学生の頃、これをベッドの下に隠して、そのまま時が流れてしまったように。あっちこっち貼られてあるテープの感触を指でなぞりながら、彩響はまた胸が痛くなるのを感じた。

濡れて、あっちこっち破られて、本来の機能はもうなくなっているけど、それでも…成が必死で助けてくれた、このノート。長年見てきた夢が潰されて、成がいなくなって、このままなにも無かったように、自分の人生も流れていくと思っていたのに…。今日の電話を受けて、再び胸が揺れるのを感じた。もしかしたら、もう一回、やり直してもいいのではないかと、そんな希望を抱いて…

(そうだ、このノートは私と似てるんだ)

涙に濡れ、ボコボコにされ、人生は元々こういうものだと自分自身を慰めて生きてきた。しかし、やはりずっと望んでいたんだと思う。長年暗闇の中で放置されても、いつか羽ばたける日を夢見ながら、ずっと待っていたこのノートのように…。


(どうする、彩響?)

ーこのノートを開けると、また新しい苦難がやってくるかもしれない。

ーこれ以上、このノートに傷を増やしたくない。これ以上苦しみたくない。

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