秘め恋ブルーム〜極甘CEOの蜜愛包囲網〜
それなのに、明らかに不満げにされて戸惑う。同時に、はたと気づく。〝仕事に慣れるまで〟という約束が、あまりにも曖昧すぎたのかもしれない、と。


私自身は、ある程度慣れれば……くらいの気持ちでいたけれど、諏訪くんは篠原さんや木野さんのレベルで仕事をこなせることを求めていたのかもしれない。
そうだとしたら早急に意見をすり合わせる必要があると考えていると、彼がため息混じりに眉を下げた。


「香月、もしかして俺と暮らすのが嫌になった?」


どこか寂しげな雰囲気を見せられて、慌てて首を横に振る。


嫌になったなんてとんでもない。
むしろその逆で、自分の想いを自覚した今、諏訪くんと一緒にいられるのはとても嬉しい。今の生活が快適すぎて困る反面、今だけは無条件で彼の傍にいられる幸福は離しがたい。


ただ、どれだけ一緒にいても、諏訪くんと肩を並べて夢を話した青く眩しい日には戻れない。彼はもう、私なんかの手の届かない人になってしまっている。


今はただ特例だ。ゲームで言う無敵になれるボーナスタイムみたいなもので、その時間が長ければ長いほど元の生活に戻るのが難しいのは明白。


正直に言うと、本当はもう手遅れかもしれない。だって、諏訪くんがいない生活を想像するだけで寂しくてたまらないから……。


「じゃあ、どうして急に出ていくなんて言い出したんだよ」


けれど、そんな自分勝手な理由は許されない。


彼にはたくさん迷惑をかけているし、私の存在が負担になっているはず。くつろげない、というのだって当たり前のことだ。


今すぐに返せるものはないものの、せめてきちんとけじめをつけたい。

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