秘め恋ブルーム〜極甘CEOの蜜愛包囲網〜
なんだか可哀想になって『自分で手当てするから』と告げれば、香月は首を小さく横に振って、『私がやります……』と弱々しく言った。
本当に大丈夫か、と思ったのも束の間。震える手で手当てをしようとした彼女は、俺の予想通り消毒液を落とし、ピンセットでガーゼを掴むこともできない。


けれど、声をかければ怖がらせる気がして、じっと待つことしかできなかった。
なんとか俺と距離を取りつつも手当てをする香月は、いっそいじらしかった。


当時は、俺を見て騒ぐ女子たちに辟易していたため、周囲の女子とは全然違う彼女に少しだけ興味を抱いた。
一方で、男子が苦手なのに一生懸命手当てをしてくれる姿に好感を持ち、本当はとてもいい子なんだろうと思った。同時に、こういうところが無意識に男を惹きつけるんだろうな、とも感じ、おもしろくないような気持ちになった。


時間をかけて手当てをしてくれた香月は、任務を全うできたことに安堵したのか、わずかに表情を和らげた。
俺もつられたように頬を綻ばせ、『ありがとう』と告げる。その直後、彼女は嬉しそうに瞳を緩め、柔らかな笑みを浮かべた。


堕ちた――という表現が、きっと一番的確だっただろう。
俺はこのとき、異性として香月を意識したことを自覚し、彼女に恋をしたのだ。

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