秘め恋ブルーム〜極甘CEOの蜜愛包囲網〜
香月は詳細こそ話さなかったものの、美容師時代には随分とひどいパワハラとセクハラを受けてきたんだろう。正直、男たちに絡まれていたときの脅え方は異様なほどで、下手をすれば昔よりもひどくなっているように見えた。


美容師時代の同僚たちは、俺の想像以上に彼女を苦しめて追いつめたに違いない。
香月を傷つけた男は、この世から存在を抹消したいほどに許せない。見つけ出して制裁を与えたいが、なによりも今は彼女とのことだ。


この一週間の香月の言動を観察した限りでは、俺には嫌悪感や恐怖心は抱いていないようだし、ぎこちないときもあるものの普通に会話はできる。
それに、引き出物の食器を見て俺の恋愛のことを訊いてきたことも考えれば、彼女にとって俺はまったくの恋愛対象外……というわけでもないだろう。
一緒に食事を摂っているのもいいのか、少しずつではあるが確実に距離は縮まっているはずだ。


香月が会社で働くようになれば、一緒に過ごす時間はもっと増えるし、話すきっかけもさらにできる。
遠慮してばかりの彼女だって、仕事では自ら俺を頼るしかない。もちろん真面目に教えるが、そういう機会があれば充分だ。


そうして、プライベートでは甘やかして、大切にして、じわじわと俺のことを意識させるようにしていけばいい。


香月は一日でも早く出ていくつもりだろう。けれど、彼女を引き止める口実くらい、今の俺ならいくらでも作れる。
夕食の支度をする香月の姿を見つめながら俺がそんなことを考えているなんて、彼女はきっと想像もしていないに違いない。


我ながら卑怯だと自覚しつつも、俺はひとりそっとほくそ笑んだ――。

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