冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~
「実は、父が入院してしまいまして。それで多額の費用がかかるとのことなんです。でも一端のサラリーマンにはなかなか用意するのが難しくて……」
「そうでしたか」
「まだ知り合って間もない澪さんにこんなこと頼むなんてどうかしてるっていうのはわかってます。でも他に頼る人がいなくて」
涙ながらに語られ、澪はもらい泣きしそうになってしまった。
お金を工面することがいかに大変かは、光江の背中を見てきたからよくわかる。それに、他人にはなかなか話せないデリケートな問題。欲しいものがあっても欲しいと言えず、澪も小さくなった上靴を、いつまでも履いていた記憶がある。正直、惨めだった。
「あの、それでいくらあれば」
おずおずと聞けば、誠が申し訳なさそうに顔を上げた。
「とりあえず100万あれば」
「100万ですか」
これまで、真面目一辺倒で働いてきた澪にとって、なんとかならない金額ではない。それに自慢じゃないが、趣味もなければ交友関係も薄い。
ここで彼を助けてあげることが、結婚への早道かもしれないという打算もあった。
「わかりました。ちょっとここで待っててもらえますか?」
「え? いいんですか?」
「はい。下ろしてきますのでお待ちください」
「ありがとう! 澪さん! 必ずお返しします」
深々と頭を下げる誠に「いえ」とかぶりを振ると、澪は近くのATMまで走った。
困ったときはお互い様。そう教えてくれたのは光江。このお金があれば、誠も光江も笑顔になれる。幸せが待っている。
ATMのボタンを押す澪に、迷いはなかった。