冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~


結局、何も聞けないまま会食の予定時刻はあっという間にきてしまった。だが澪は秘書の仮面を張り付け、匠馬が会食へ出向くのを凛とした姿勢で見送っていた。

「いってらっしゃいませ」
「あぁ行ってくる」

匠馬が澪に来なくていいといった理由は、こういうことだったのだ。きっと今日、匠馬は縁談をまとめてくるのだろう。そしてあの女性と結婚する。

「神谷」
「はい」
「いや……やっぱりなんでもない。いってくる」

何か言いたそうだったが、匠馬はそれ以上何も言わず、予約していたハイヤーに乗り込んだ。

自分が今から何をしに行こうとしているのか、澪が知っているかどうか気になったのだろう。

元々住む世界が違う人。これが自然の摂理だ。

匠馬が帰ってきて、あの時の告白はなかったことにしてほしいと言われたら、澪には頷く以外、選択肢はない。

澪はハイヤーが見えなくなるまで見送ると、暫くその場で呆然としていた。


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