冷徹御曹司の最愛を宿す~懐妊秘書は独占本能に絡めとられて~


澪も待ち合わせの20分前に着いたというのに、匠馬はそれ以上早く来ていた。よほどこの時を待っていたのだろう。

社長を待たせるとは何事だとすぐに謝ったが、プライベートだと一刀両断されてしまった。今日はただの男と女でいてほしいようだ。

「そういえば岐阜のホテルのスタッフの件だが、本社の経理部にまわることになった。元々その部署を希望していたようだったし、叶えてやれてよかった」
「そうなんですか。はぁ、よかった」

無断キャンセルの件で責任を感じ、辞めると言っていた子だ。ずっと心配していたから、いい方向に転換できてよかった。

「なぜお前がそんなに安堵してる」
「ずっと気になっていたんです」
「会ったことも、話したこともないのにか? 面白いやつだな。まぁそういうところが澪のいいところだし、俺も好きだけどな」

赤身のお肉にナイフを入れながら涼しい顔で言う。あまりにもストレートでいきなりだったので、澪の頬は熱くなってしまった。

「本店の桜井も、この前澪がかばってくれたことを、喜んでたらしいぞ」
「そうですか」

そんな話、いつ聞いたのだろう。忙しいはずなのに、匠馬はスタッフの声によく耳を傾けている。そういうところを、澪は尊敬していた。

「ほら、食べないと冷めるぞ」
「あ、はい。食べます」

慌ててフォークとナイフを握った。すると匠馬が、そんな澪を見てクスッと笑った。


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