溺愛ウエディング~最後の夜に授かった赤ちゃんは社長の子、もう二度離さない~
私は給湯室から出られず、ジッとその場にしゃがみ込んでいた。

もう三十分以上、こうしていた。
仕事があると言うのに、加那斗さんに合わせる顔がない。

「いつまで…そこに居るつもりだ?七海」

加那斗さんが給湯室の出入口に来た。

「加那斗…さん…私・・・」

「裕美は帰した…。すぐにお前の元に行ってやりたかったけど…裕美のヤツがなかなか帰らなくて…」

彼もしゃがみ込み、私と目線を合わせる。
いつもと変わらない優しい眼差し。

私が元風俗嬢だと知っても、彼の目は変わらなかった。

「加那斗…さん・・・」

「・・・ようやく七海の影の部分が見えた…」
「!?」

「時折見せる憂いのある顔に何かを感じていた…」

「・・・貴方は私のコト、ふしだらな女とは思わないんですか?加那斗さん」

「・・・金に困ってたのか?」

「・・・」
私は黙って頷いた。

「…そっか…」

彼は私の眼鏡を外して、目に溜まった涙を指で拭った。


「俺と居れば、金に困るコトはないぞ…だから…二度と俺以外のオトコにカラダを触れさせるな…分かったな…七海」


それは嬉しい独占欲だった。

私達はキッチンの下で唇を交わした。

やはり、彼は私の理想の人。
彼の腕の中から出たくない。
このままずっと、彼と一緒に居たい。

でも、彼には裕美さんが居る。
こうしている間にも彼と裕美さんの結婚話は進んでいく。
私達の愛は深まるばかり。

周囲に反対されれば反対されるほど、燃えてしまう愛って厄介な感情かもしれない。


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