陰キャの渡瀬くんは私だけに甘く咬みつく

陽呂side



 好き。

 そのたった二文字の言葉が今は言えない。

 美夜の姿を視界にとらえるだけでその思いはあふれるってのに……。


 大切で、大事な気持ち過ぎて……簡単には言えない。

 簡単に言いたくない。


 どうしたらそのたった二文字の言葉に俺の思いを乗せられるんだろう?

 二文字の言葉は少なすぎて、足りない。


 そんな思いを自覚するたび、自分は重いなぁとちょっと落ち込む。



 どうしてこんなに他人を思うようになってしまったんだろうな。

 昔はこんな風に誰かに執着するなんてことなかった。


 小学校の頃はそれなりに友達とかもいたけど……。

 元々人に興味を持てなかったこともあって人付き合いが億劫(おっくう)になっていった。

 中学になったら人も多くなったから、小学校の友達は他に友達を作っていって、俺は別にいらないしと思って友達を作らなかった。

 結果、ボッチで陰キャな俺の出来上がり。


 それでいじめとかあったんならまたもう少し考えただろうけど、そういうのも無かったから悠々自適(ゆうゆうじてき)に一人で過ごしていた。

 他人に興味を持てなくて話していてもつまらない俺なんかと、一緒にいたいなんて特異なやつもいなかったし。


『俺なんかなんて言わないで』


 そこまで思い出すと、頭の中で美夜の声がした。
< 114 / 205 >

この作品をシェア

pagetop