冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
そうして幸せなおやつタイムを味わっていると、仁さんの車の音が聞こえてきた。
「仁さん、帰ってきたみたい」
「相変わらず千聖ちゃんは耳が良いわね。わたしなんて全然聞こえないわ。…歳かしらねぇ」
フッと寂しげに一瞬目を伏せたかと思うと、わたしの方にいつもと変わらない優しい眼差しを送ると、
「坊っちゃまが帰ってくる前に、ここ片さなくちゃねっ!」
茶目っ気いっぱいのウインクをしてみせた。
まり子さんって、昔はモテたんだろうなぁ。
「さぁ、それはどうでしょう?」
編み物を片しながら意地悪く笑うまり子さんに、
「っ、わたし、また口に出して…!?」
カーッと恥ずかしくしていたら、ガチャリと玄関の両開きドアが開いて、冷たい空気と気怠い溜め息と共に我が家の主、仁さんが帰ってきた。
慌ててお出迎えをするわたしとまり子さんだったけど、仁さんはそんなわたし達に感情が乗っていない笑顔を作るとわたし達が今まで居たリビングへとフラフラ歩いて行ってしまった…。
思わず目を合わせてパチクリと同じタイミングで数回瞬きをした。
「…なにか、あったんでしょうね」
「あったんでしょうねぇ」
まり子さんの、なんて事はない返事に少し戸惑ったけど、すぐに
「あっ!坊っちゃまにもお紅茶をお出ししなきゃっ!」
言うなりパタパタと小走りでキッチンに吸い込まれるように消えてしまった。
それを「わたしも手伝わせてくださいっ」と
慌てて追いかけてキッチンにリビングを抜けて入ろうとした。
ーーなのに。
「ーーちさと」
リビングに入った途端、名を呼んできた美しいオジサン。
そんなオジサンは、わたしに見えるようにポンポンとソファーを数回叩いた。
「座れ」ってことね。
わたしはテクテクと仁さんが居るソファーまで行くと、隣に腰を下ろした。