冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
「これを…」
まり子さんはわたしの前に桜柄の布に包まれた「もの」を差し出した。
何も言わず受け取ってみるととても薄くて、触った感じ封筒のようだった。
「どうか、わたしが帰ってから開けてください」
穏やかなようでどこか憂いのある顔でニッコリと微笑んだまり子さんを見て、言い知れぬ不安が押し寄せてくる。
「っ、まり子さん。まり子さんは何処にも行かないよね?わたしや仁さんの前から居なくなったりしないよね…っ?」
不安で怖くて途端に涙が。
そんなわたしをまり子さんはその小さな身体で優しく包んでくれる。
「大丈夫よ。わたしはいつだって千聖ちゃんと坊っちゃまのお側にいますよ」
ポンポンとまるで赤子をあやすかのようにわたしの背中を軽く叩いて落ち着かせてくれようとしてくれる。
「さぁさ、泣き止んで?そろそろわたしは帰らなきゃ」
グズグズなわたしの顔をハンカチで綺麗に拭いてくれて、まり子さんはスッと離れてると静かに家を後にした。
まり子さんが帰ってすぐに今度はお風呂上がりの仁さんが部屋に入ってきた。
「なんだ、まり子さんいま帰ったのか。…千聖っ?」
わたしがボロボロ泣いているのに気付いてすぐに抱きしめてくれる。
「どうした」
「…きっと、良くない、ことっ」
それを伝えるのだけで精一杯で、わたしは包みごと仁さんに渡した。
「まり子さんがこれを?」
仁さんの問いにわたしはうんうんと首を振るのだけで精一杯。
わたし達はいつものようにベッドに腰掛けて、仁さんが包み物を解く。
そこには2通の封筒が。
1通は仁さんとわたしへの手紙。
もう1通は…、
退職願いだったーー。