冷徹な恋愛小説家はウブな新妻を溺愛する。
今日は生憎(あいにく)の雨。
高速を走るフロントガラスに雨粒が容赦なく打ちつけ、それをワイパーが一生懸命外へと弾いている。
「すごい、雨ですね」
「あぁ」
「…千聖。言いたい事を誤魔化すな」
「っ、」
ふぅと軽く息を吐き、一瞬だけ仁さんがこちらを見る。
「…気になるんです。ひとしって名前が…。あと、以前仁さんが言っていた「ふたつの事実」のもうひとつの事実も…。ごめんなさい、こんな事わたしがでしゃばってはいけないのに…」
俯き、腿(もも)の上に置いていた手をぎゅっと握る。
「千聖は私の妻だ。でしゃばってもいい。私こそ全てを話さないままですまなかった」
「そんなっ、そんなことっ…、」
「私は、養子なのだよ」
「…え、」
「ふっ、キミがそんなにショック受ける事ではないだろう?」
「だって、」
「キミは優しいな。彼女の父親に告げられた時は俄(にわか)には信じられなかったし、情けない話しだが怖くて両親に問いただす事も出来なかったよ。けれど彼女と別れ、ひとり他県へ越す時に住民票と戸籍を見た時、事実なのだと痛感したんだ」
「…仁さん」
「そんな表情(かお)しないでくれ。今は全く悲観はしていないし、実の子のように愛情持って接してくれた両親に感謝しているよ」
「…この事、ご両親は」
「わたしが自分が養子だと知ったことは解っているだろうな。でも、敢えてその事については触れてこないし、わたしもそれでいいと思っていた。…でも、」
すぅと前方を見たまま仁さんの目が細められる。
「いよいよハッキリさせなくてはいけなくなったみたいだ」
仁さんが言う「ハッキリさせなくては」の意味を薄々気付いているわたしは、仁さんの実家に近づくにつれ心臓の鼓動が速くなっていった。