鵠ノ夜[中]



お嬢がどんなことを企んでようと。

どんな悪名高い女王様であろうと。



「……好きだよ」



俺はこの人になら、騙されたって構わない。

それでもそばにいられるなら。──俺を嫌いにならないで、いてくれるのなら。



「……、うん。知ってる」



「誘ってくんのに振り向く気配ないし。

口説いたっておちてくんないし、むしろこっちがどんどんおとされるし、好きすぎて苦しいし、」



「………」



「お嬢のこと放っておけないけど……

放っておくもなにも、はじめからお嬢のことしか見えてないのに、」




苦しい。甘ったるい毒に締め付けられてるみたいに。

素直に抱きしめられるくせにほんの一ミリも応えないお嬢が憎たらしくて、でも大好きで。



「いっそ好きって嘘ついて、俺のこと騙して、」



もう、偽りだってなんだって良い。

俺が欲しいのはお嬢の心だけど。完璧なほどに俺を好きなふりをしてくれるなら、嘘でできた心の声だって、構わない。



「雪深」



背中に回される腕と、耳元に触れる吐息。

視線が絡むだけでこんなにも胸が痛いなんて、重症にもほどがある。完全に毒されて盲目だってことは、自分でもわかってるけど。



「愛してるわよ」



中毒? 依存症?

いやそんな生ぬるいもんじゃない。──俺を堕としたのは紛れもなく、狂おしいほどの"愛"だ。



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