鵠ノ夜[中]



「夕飯に招待したいから出てきてくれないか、と」



「……うん、嫌な予感しかしないんだけど」



「なんでも……

旦那様も、八王子家は贔屓にされてるようで、」



……おおっと、まじか。

旦那様が贔屓にしてんのかよ。それを言うってことは断らせる気ねえよなあ、と仕方なく寛ぎモードから切り替える。



「招待って、着替えた方がいいの?」



「いえ、そのままで大丈夫らしいです」



「……つーか、そもそもアイツに用じゃないんだな」




……たしかに。

八王子のことだからお嬢に用事とかありそうなのに、どうやら用事があるのは俺ららしい。まあお嬢とあの男がふたりで過ごすのも嫌だから、男5人で許容してくれんならマシだけど。



「いらっしゃい。

君たちなら来てくれると思ってたよ」



特に準備もなくそのままの格好で別邸を出ると、御陵邸の松の門の前に停まっている、あからさまなリムジンへ足を向けた。

ドラマやアニメでしか見たことのないような執事服を着た男性が扉を開けると、笑顔で八王子が俺らを迎える。何も嬉しくないけど。



「呼ぶなら前もって連絡しろよ」



「はは、先程商談が早く終わったから、それなら……と来てみた次第だよ。

さあ、乗って乗って。席はどこでもいいからね」



「わぁい。リムジンってこんな感じなんだねー」



いちはやく馴染んだ芙夏が、シートに座る。

……別にいいけど、怪しむとかねえの?



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