鵠ノ夜[中]
「……今月どこかで一時間分仕事増やすわよ」
小豆の膝の上に、さらに膝を重ねるようにして乗りかかる。
首裏に腕を回して右手でメガネを引き抜こうとしたら、「兄と似てる必要あります?」と挑発された。……正直、どうだっていい。
「メガネしてなくたって、憩とは違うでしょ」
「……見分けられるのはあなただけですよ雨麗様」
メガネを外した小豆が、それを机に置く。
似てはいるけれど普通に見分けのつく櫁の首裏に腕を回しながら、「キスだけよ」と前置きした。前回の件もあるし、反省してもらわなきゃ困る。
「……、ねえ、わたしのこと好き?」
無邪気で、無垢な問い掛け。
深い意味など何もないのに、全てを左右する。
「好きですよ。
あっさり兄と終わられたことには驚きましたが」
「……あっさり、ねえ」
吐息多めに言葉を吐いて、目を閉じる。
本当にあっさり終わったからこうやって何人もの男と中途半端な関係を続けているのか、あっさり終われなかった不完全燃焼を、ほかの男で晴らしているのか。
「……幸せになれませんよ、あの方とは」
まあ、なんでもいいか。
みんなが帰ってきたら、ジャスミンティーをあんみつに合うお茶に変えてもらおう。お土産、チョコレートでもよかったかもしれない。
「……俺と結婚なさればいいのに、と。
割と本気で思ってますよ、雨麗様」
糖分が足りなくて、頭が働かないみたいだ。