鵠ノ夜[中]



「君のことだから、

天祥はとりを連れてくると思ってたけど、」



「はとりはだめよ。

……あの子は話を理解できすぎてしまうもの」



「優秀過ぎるのもだめ、ってか。

さすが番犬使いのお嬢様はひと味違うな」



「馬鹿にしないで」



不機嫌に顔を歪めた彼女が、またグラスに口をつける。

なりふり構わず飲む勢いのレイに「飲みすぎんなよ」と口出しすれば、「わかってる」と答える彼女。……ほんとかよ。



「今日は、めずらしくヤケになってるね」



「本気でヤケになってたら、

話し相手にあなたを選んだりしないわよ」




グラスに乗っていた青がなくなると、彼女が新たにカクテルを頼む。

別に飲んだっていいけど、酔っ払ったらこの場合俺が連れて帰ることになるからめんどくさい。酔ってるとこなんか見たことねーけど。



「……酔ったら置いて帰るぞ」



「ひどいこと言わないでよ……

何のためにシュウのこと連れてきたと思ってるの」



「………」



「万が一に酔っ払っても、まともに連れて帰ってくれるのはあなただけよ。

雪深と胡粋は酔ったわたしに何するかわからないし、芙夏はまだ中学生だし、話の内容を理解出来るはとりはだめなんだもの」



だからよろしくね?と。

運ばれてきたギムレットを口にする彼女に、もう諦めた。俺らの飼い主は"こう"と決めれば、意地でもそれを変えるような女じゃない。



ため息を吐きたい気分だけど我慢して、グラスに口をつける。

中身はレモンを漬けたシロップにスパークリングを混ぜただけのカクテルで、いわば子どもでも飲めるノンアルコールのもの。



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