鵠ノ夜[中]



でも、言われてみれば雨麗はそもそもそういう祝い事に興味がなさそうだ。

自分の誕生日すら祝うことに抵抗のある人間が、自分とは何ら関係のない日を楽しむとは思えねえし。



「ってことはナシでいいよね」



「えー、ぼくケーキ食べたいなぁ」



「……クリスマスじゃなくても食べれるんだから普通に買ってきなよ」



「違うよ~っ!

クリスマス感のあるケーキが食べたいの!」



ほかのヤツらがあまりにも個性的すぎるせいで霞んで見えるが、芙夏も大概マイペースだ。

それでも芙夏が年下なのは大きいようで、雪深は「んじゃあケーキだけ食えばよくねえ?」と芙夏を見る。



"クリスマス感のあるケーキ"を食べたいだけの芙夏はそれにこくこくと頷いて、苺のショートかチョコレートのどっちがいいか嬉々として多数決を取っていた。

芙夏の持ち前の素直さは、時に尊敬に値すると思う。




「日が近づいてきたら予約してこよーっと」



るんるんと楽しげな表情を浮かべる芙夏に、ふ、と小さく笑みが漏れる。

それに目ざとく気づいて、「どうしたの?」と不思議そうに首を傾げる芙夏。



「お前はムードメーカーだな、と思って」



「……? そうかなぁ?」



「お前がいねえと絶対空気悪いだろ」



断言すれば、しれっと視線を逸らす残りの3人。

俺も含めて、お互いに深く干渉するタイプじゃねえからついつい芙夏がいねえと空気は重くなる。仲は良いけどな。



そんな俺らの様子をぱちぱちと大きな瞳で見つめた芙夏は、ふわりと嬉しそうに笑った。

「ありがとう」って、その一言に。



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