隣の不器用王子のご飯係はじめました
恋をしなかったのは





「ひろ、緊張してる?」


電車を何度か乗り換えて約三時間半。

数年ぶりに降り立った駅で、姉さんが心配そうに聞いてきた。



「まあ、それなりに」



俺は、一人暮らしをする姉さんの帰省に同行していた。

母の住む家へは、この駅から歩いてニ十分ほど。

小学生の頃、少しの間住んでいた場所だ。


今住んでいる場所に比べると田舎ではあるものの、生活に必要な店や施設はたいてい近くにあり、暮らしやすい町。

入り組んで迷いそうな住宅地の一角に、その家はある。



「ひろはここにいて」



家の前まで来て、姉さんが言った。

俺が来ることは伝えていないそうだ。伝えたら、絶対来るなと電話で怒鳴られる可能性があるから。

それならいっそ突発的に来て、強制的に話す場を設けようということになったのだ。


姉さんはゆっくりインターホンを押した。



「母さん?あたし。礼菜」


しばらくしてガチャリとドアが開いた。

そこから出てきた母親は、俺の記憶よりもずっと老け込んでいた。


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