僕が愛した歌姫
脅迫
考えるよりも先に体が反応していた。


酒が入って酔っ払った勢いでそのまま眠ってしまったとは思えない俊敏な動きに、自分自身が一番驚いている。


電気をつけっぱなしでヒロと2人雑魚寝をしていたのがよかった。


もしこれで部屋が暗かったなら、俺は間違いなくその男を不法侵入の不審者だと思って、手に持ったサイン入りバッドで殴りかかっていただろう。


いや、これは明らかに不法侵入の不振人物で間違いないと言えるのだが……。


その人物が蛍光灯で照らし出された時、俺は半分口を空けたまぬけな顔で動きを止めた。


「よぉ」


その人が昔からの親友へ向ける挨拶と同じようなものを俺にするから、ついつられて「よぉ……」と、返事をしてしまった。


しかし、俺とこの人物が昔からの知り合い出ないことは明白な事実で。


そもそもどうやってこのアパートを探し当てたのかどうかさえわからない。


「退院したんだな」
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