聖夜に身ごもったら、冷徹御曹司が溺甘な旦那様になりました
 その夜のディナーは十弥が作ってくれ、玲奈はチョコレートケーキを焼いた。大理石のダイニングテーブルの上には、かぶのサラダ、ほうれん草のキッシュ、タコのアヒージョに牛ほほ肉を煮こんだシチューとまるでレストランのようなメニューが並べられた。

「お料理も得意なんて本当に超人なんだから」

 玲奈のほうはひとり暮らしが長いわりに、あまり料理が得意でない。今夜のチョコレートケーキも『子どもも作れる』という煽り文句の簡単レシピで作ったのだ。

「それはほら。イギリスは料理があんまり……で有名だろ」

 ロンドン時代に習得したのだと彼は語った。十弥の作った料理はどれもおいしく、おまけに妊婦である玲奈の栄養まで考えられていた。
 ケーキののったフォークを口に運んだ十弥は「うまい」とシンプルな感想を述べた。

「よかった! といっても、大手菓子メーカーのチョコレートの味そのままなので失敗しようがないんだけど」

 玲奈は簡単レシピであることを彼に打ち明ける。十弥は笑って首を横に振った。

「君が俺のために作ってくれた。それがうれしいんだ」

 そして、テーブルの上にロイヤルブルーのリボンのかかった小さな箱を置いた。

「これを君に」
「えっと、バレンタインだからプレゼントを用意するのは私のほうかと……」

 玲奈はプレゼントにマフラーを用意していた。上質なウール地でどんなスーツにも合いそうなダークグレーのシンプルな品だ。

「いいから開けてみろ」

 促されるままに玲奈はリボンを解いて、白い箱を開ける。見たことないほどの大粒のダイヤモンドがキラキラと輝いていた。格調高いエメラルドカットの石があしらわれた直線的なデザインは、甘さ控えめかつ洗練されていて玲奈の好みにぴったりだった。
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