Diary ~あなたに会いたい~
 まさか、他人の空似だろうか?
 それにしても……あまりに似すぎている。

 信じられない心地で、じっと見つめる俺に
気付く素振りもなく、その女性がフロアーを
横切って受付に向かう。
 そして、にこやかに受付の女性と話しを
始めた。

 肩口までは届かない、艶やかな黒髪の隙間
から整った横顔が見える。
 その顔は彼女と同じものなのに、やはり、
ゆづる本人ではないことに気付く。

 そもそも、髪の長さが違う。
 それに、着ている服や身に纏う雰囲気も
まったく違っていた。
 水色のカーディガンを羽織り、踝まである
スカートを揺らす後ろ姿は、清楚なお姉さん
という印象だ。

 それでも、他人の空似というには似すぎて
いる。このまま、何も確かめずに彼女を見送
ることはできなかった。

 俺はぺろりと唇を舐め、彼女が会計を終える
のを待つと、クリニックの出口に向かう彼女
の背中を追った。

 「あの」

 医院の自動ドアを出たところで、後ろから声
をかける。建物の階段を下りようとしていた
彼女の動きが、ぴたりと止まった。ゆっくりと、
こちらを振り返ろうとする彼女に、俺は言葉を
続けた。

 「突然すみません。あなたが私の知り合いに
よく似ているので、もしかしたらと……」

 そこで言葉を途ぎった俺の顔を見た瞬間、
彼女の表情が凍りついた。
 まるで、幽霊でも見ているかのような顔を
して顔を強張らせている。
 もしや不審人物だと、誤解されてしまった
のだろうか?
 ゆづるに瓜二つの顔を歪めながら俺を凝視
している彼女に戸惑って、あの、と、口を
開いた瞬間。

 「いやぁっ!!!」

 彼女は悲鳴を上げ、頭を抱えて倒れ込んで
しまった。

 「ちょっ……あぶない!!」

 咄嗟に、階段を転げ落ちそうになった彼女
の腕を掴み、俺は身体を支えた。
 つもりだったが、支えきれずにその場に
ふたりで倒れ込む。ドシンという振動の直後
に、鈍い痛みが肘に走った。

 「いっ…っ……おい、大丈夫か!?」

 自分の上に被さるようにして肩に顔を埋めて
いる彼女の顔を覗く。
 どうやら意識を手放しているらしく、しっか
りと閉じられた瞼は動かない。わけがわからぬ
まま、彼女の顔を見つめていると、すぐ後ろの
自動ドアが開いた。

 「大丈夫ですかっ!!?」

 駆け寄ってきた看護婦に、はい、と頷く。
 身体を起こしながら、首を捻って院内に目を
向けると、怪訝な顔をしてこちらの様子を窺っ
ている患者たちの間から、先ほどの医師が歩い
てくるのが見えた。

 そうして俺の顔を見た瞬間に、表情を止める。


 その顔はさっき、腕の中の彼女が俺に見せた
ものと、まったく同じものだった。
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