契約結婚に初夜は必要ですか?
彼とは利害が一致しただけの、愛のない契約結婚のはずだった。
――なのに、いま。

「ねえ。
これはどういう状況なのか説明もらえる?」

こののしかかられた状態はまさに襲われる何秒か前。

「初夜だろ?」

さらりと言いのけ、困惑する私を無視して彼は顔を近づけてきた。

「えっ、あっ、ちょ……ん!」

強引に唇が重なり、すぐにぬるりと舌が滑り込んでくる。
思いのほか気持ちいいキスに溺れそうになりながら、なんでこんな事態になっているのか考えていた。



半月ほど前、私は契約社員で働いていた職場から唐突に契約解除を言い渡され、次の職場を探していた。

「そう簡単に見つからないのはわかっているけど」

コーヒーショップの一角でストローを咥え、甘ったるいストロベリーフラッペを吸い込む。
いつ新しい働き口が決まるかわからないいま、節約しないといけないのはわかっている。
が、たまには胸焼けしそうなくらいクリームたっぷりのドリンクで息抜きぐらいしないと挫けそうだ。

「あ、イチコだ」

唐突に男の声が降ってきて、睨んでいた携帯の画面から顔を上げる。

「最近、姿を見ないがどうしたんだ?」

< 1 / 17 >

この作品をシェア

pagetop