社長宅の住み込みお掃除係に任命されました②
話せば長いことながら、簡単に言うと、私はフィッシング詐欺に引っかかり、全財産を失った。

と同時に住んでたアパートも、引っ越し予定だったために出なければいけなくなり、家もなくした。

昨日から会社に潜り込んで仮眠室で生活しようと思ってたら、接待帰りの社長に見つかってここへ連れてこられた。

で、掃除や片付けの苦手な社長宅の住み込みお掃除係に任命され、今朝に至る。

「紗世、今朝はそれくらいにして、出るぞ。
 朝飯、食いに行こう」

えっ?

でも、社長はまだスウェット姿。

「その格好でですか?」

私がきょとんと見上げると、社長は、くくくっと笑う。

「そんなわけないだろ。俺は15分もあれば準備できるが、紗世は? お前、まだすっぴんだろ?」

言われて、初めて気づいた。

キャー!
お米を研いでから化粧をしようと思ってたのに、忘れてた。

私は、慌てて踵を返して、社長に背を向けた。

「見ないでください」

もう、昨日から恥ずかしいところばかり見られてる。

「くくくっ
これから一緒に暮らすんだから、いちいち気にするな。俺はすっぴんの紗世も嫌いじゃないぞ」

社長ってば、ぽんと人たらし。

いつも人が嬉しくなる言葉をさらっと言ってのける。

だから、みんな社長を慕うし、会社も大きくなってきたんだと思う。

「じゃあ、競争な。負けた方が勝った方の言うことをひとつ聞く」

「えっ?」

驚いた私は、思わず振り返った。

「ただし、紗世、フルメイクな。手抜きメイクで勝とうとするなよ」

あ、バレてる。

今まで私が寝坊すると、いつも社長が言い当ててたのは、メイクの違いに気づいてたからなんだ!

「じゃあ、私が勝ったら、社長にも片付けを手伝ってもらいますよ?」

ここぞとばかりに言ってみる。

だって、社長が変わってくれないと、私がいくら片付けても、すぐに散らかるのは目に見えてる。

「分かった。じゃあ、用意スタート!」

そう言って、社長は私の頭をくしゃりと撫でたかと思うと、スタスタと自分の部屋へと戻って行く。

それを見て、私も慌てて部屋へと戻った。

メイク道具を出して、慌ててメイクをしていく。

メイクを終えると、次は髪。

お料理をしようと、とりあえず、一つに結んでいた髪を下ろして、結び直し、根元を緩めてふんわりとルーズ感を出す。

よし!

まだ、社長から声が掛からないところを見ると、きっと社長はまだ髭でも剃ってるに違いない。

私は、バッグを手に、意気揚々とドアを開けた。
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