『君』の代わり。

結局

そのまま歩き続けて

電車には乗らなかった



歯医者の看板が見えてきた

空がやっと薄暗くなってきた



朝日奈は

ずっとオレの後ろをついて来た



オレのリュックのヒモに掴まって



「さっき、手、痛くなかった?
オレ、無理矢理引っ張ったから…」



「うん…痛くなかった」



「足、痛くない?
いっぱい歩いたから…」



「うん、大丈夫…
また痩せたかも…」



「まだダイエットしてんの?
無理すると、体、壊すよ」



「うん…そーだね…
…
ありがと…
…
星野…」



「オレ、何もしてないから…
…
朝日奈に、何もしてやれないから…」



朝日奈…

好きだよ



大好きなのに

何もできない



ありがとうって

朝日奈に言われると

嬉しいけど

虚しくなる



「星野は
いつも、私をちゃんと見ててくれる」



うん

いつも見てた



なのに…



今

振り返って

朝日奈を見る事も

こわくてできない



「見てないよ
…
ごめん…今も、ちゃんと見れない
…
この前、一緒に帰って
朝日奈と分かれてから
朝日奈のこと…
朝日奈のこと…見たくないと思った
…
学校でも見ないようにしてたし
会わないようにしてた
…
今日、久しぶりに見掛けたら
なんか朝日奈、ちょっと痩せてて…
心配になった」



声が震えた


泣かないように必死だった



「私のこと…嫌いになったの?」



「違う…嫌いになんかなってない」



今

振り返ったら



朝日奈と

面と向かったら



オレ

どぉなるかな?



自分でもわからなくて

こわかった



好きなのに

こわい



朝日奈と

同じ



「今、振り返ったら…
…
オレ…
…
たぶん
朝日奈のこと…
…
もっと好きになると思う
…
だから…
見ない
…
見れない」



日が落ちた



空が暗くなって

少し涼しくなった



リュックに重みを感じた



たぶん朝日奈が

オレのリュックに抱きついてる



「星野…」



「ん…?」



朝日奈の沈黙さえもこわかった



朝日奈から次の言葉が出る前に



「帰ろ…」



オレが言った



「うん…」



リュックが軽くなった



「じゃあ…」



「うん…
…
ねー、星野…
明日はちゃんと見てくれる?
明日からまた見てくれる?
学校で、目が合ったら、手振ってくれる?」



「うん…」



目を合わせる度胸も

手を振る勇気も

あるかわからないけど

とりあえず頷いた



「じゃあ、いいよ…
また明日ね…
…
バイバイ、星野…」



「うん、バイバイ…」



振り返らず

いつもの看板の前で分かれた



自分の影を踏みながら歩いた



また明日…



< 61 / 167 >

この作品をシェア

pagetop