腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。

破水

テレビに映っているのは、今旬のお笑い芸人。

「あっはっはっは、ウケるー」

ソファに座って私は一人、芸人が出ているお昼の情報番組を見て大笑いしている。

ね、面白いよね、ウケるね、春夏?

私の言葉に応えてくれる声はもうない。少し寂しいけど、これが今の私の日常。

春夏が託してくれた、私の未来。

「はぁー笑った笑った……さてと、今のうちに夕ご飯の準備でもしちゃお」

既に臨月となり随分大きくなったお腹を抱え、よっこらしょと立ち上がる。夕方以降は足がパンパンにむくむから、ただでさえ重くなった身体が動かしにくくなりご飯の用意さえ億劫になるからだ。

まぁ私、得意なことと言ったら料理だけだし、そこはなるべく手を抜きたくないし。

「ん……?」

立ち上がって一歩踏み出した瞬間、じわりと、内股に温かなものが伝う感覚。驚いて足元に目をやると、みるみるうちにフローリングに水溜まりができていく。

「え、あれ、まさか……は、破水っ!?」

現在妊娠三十七週に入ったところ。正期産の時期とはいえ、初産だしまだまだかかると思って油断していた。

「ど、どうしよ……とりあえず鷹峯さんに連絡をっ……」

慌てて仕事中の鷹峯さんにLIMEを打って、それから病院に電話した。産科病棟の看護師さんからすぐにタクシーで病院に来るよう指示を受け、私は用意していた入院用グッズを持って慌てて病院へ向かう。
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