腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
やはり大学病院は人が多い。

ここでも散々待たされた挙句(あげく)、結果は原因不明。内服薬をもらって、ゴールデンウィーク明けに再診することになった。

「今日見た限りでは婦人科系の病気ではなさそうだけど……鉄剤とビタミン剤を出しておくから、これで改善しなければもう少し詳しく検査しましょう」

担当してくれたのは、少し年上の女医さんだった。黒髪のショートカットが似合う美人で、サバサバとした雰囲気の頼れる姉御って感じ。

初めて内診台というやつに乗ったので、女の先生で良かった。









時刻は午後六時過ぎ。大分(だいぶ)日が長くなってきたとはいえ、この時期六時半を回れば太陽は沈む。

私は夕暮れの道をとぼとぼと一人で歩く。

「まだ二十八歳……これから入籍して、結婚式挙げて、ハネムーンにも行って……幸せの絶頂のはずの私が、なぜ……」

そんな恨み言をブツブツと呟きながら、マンションエントランスを抜けエレベーターで上がり部屋に入る。まだ航大は帰っていないようで、部屋の電気は消えていた。



ん? あれ?



廊下の先にある開けられたままの室内ドア。そこから見えた暗いリビングに、何だか違和感を覚えた。


何だろ……。まぁ、いっか。


ひとまず手を洗おう。そう思い、先に脱衣所のドアを開け、私は足を止める。


「ない……」


そこにあるはずの洗濯機が、ない。

慌ててリビングに入ったところで、ようやく違和感の正体に気が付いた。

ぱさりと、スマホと財布の入った小さなバッグが落ちる。

なにこれ……もぬけの殻……。

「オー、マイ、ガー……」








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