腹黒天才ドクターは私の身体を隅々まで知っている。
〈あなたもラッキーねぇ。こぉんなイケメンなお医者様と同棲できるだなんて。私に感謝なさい〉

私はさっきから頭の中でわーわーとうるさい幽霊女に思わず舌打ちをする。

「……だいたい誰なのよあんた。人の身体を乗っ取って良いように……」

「……はい?」

「すみません。ちょっと中の人と会話を……」

あ、やだやだ。だからそんな目で見ないで下さい鷹峯(たかがみね)さん。

〈私は春夏(はるか)、享年二十四、あなたの部屋の元住人よ。乗っ取るなんて人聞きの悪い。ちょっと借りてるだけじゃない?〉

春夏はドヤ顔ならぬドヤ声でそう(のたま)う。さっきから頭の中に声は聞こえるんだけど、姿が見えないのは不幸中の幸い。

だって……もしかしなくてもこの幽霊女、元恋人にバラバラにされた例の被害者だ。できればお目にはかかりたくない。

〈それにしても久々にあの部屋から出たわ。それがまさか鷹峯さんの家だなんて最高! 褒めて遣わすわ聖南(せいな)

聞けばこの女、気付いたら幽霊になっていて1402号室の浴室にいたらしい。一応部屋の中はうろつけるものの、何度外に出ることを試みてもできなかったのだとか。

死んでからの五年で何人か居住者がいたが、こんな風に身体の中に入れたり声が届くことはなく、みんな体調を崩すか春夏の姿が見えてすぐに出ていってしまったと。

私の身体も、最初は私が部屋にいる時にしか取り憑けなかったらしい。さっき私達が帰ってきて、鷹峯さんが一緒にいるのを見た瞬間、気持ちが(たかぶ)って気付いたらばっちり憑依に成功したようだ。

〈今まであそこに住んでたのはみんな冴えないおっさんだったからねぇ。やっぱりおばさんとはいえ同性のが入りやすいのかしら?〉

「生きてたら私の方が年下だからね!?」

「っ……!?」

鷹峯さんゴメンなさい。お願いだから引かないで。

「……とりあえず、貴女はバイト先に連絡を入れて二週間は休みを取ってください」

「に、二週間も休み!? でも、お金が……」

鷹峯さんの言葉に、私は愕然となった。

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